溶接の火花すら出せなかった新人内作が、チームを率いて5メートルタンクを作るまで

普通科高校を卒業し、溶接を実際に見たこともない状態で入社した萩さん。溶接で「火花を出すことすらできなかった」という未経験からスタートし、10年経った今では後輩と一緒に5メートル級のタンクを作れるようになった。職人さんに育てられ、今度は自分が技術を繋いでいく立場になった萩さんに、その歩みを聞いた。

「ものづくりが好き」という直感で飛び込んだ

Q:まず、入社のきっかけを教えてください。

萩:高校3年生の時に、サッカー部の先輩が日本化工機で働いていたんです。その先輩から、会社の雰囲気とか、人間関係がどうとか、どんな仕事をしているかとか、いろいろ聞いていて。それがきっかけで興味を持って、先輩に紹介してもらって面接を受けました。

Q:工業系の学校ではなかったんですよね?

萩:はい、普通科の高校でした。溶接という言葉は聞いたことがあったぐらいで、実際に見たこともなかったです。どういう動きをするのかも、どのような道具を使うのかも、何も知らない状態でした。

Q:それでも「やってみよう」と思えたのはなぜですか?

萩:小さい頃からものを作るのが好きだったんですよね。プラモデルをよく作っていて。もちろん規模は全然違うんですけど「ものづくりは自分に合いそうだな」という感覚がありました。今考えると高校生なので本当にただの直感でしかないんですけど(笑)。求人の段階で「内作(工場での製造作業)」という仕事内容は決まっていたので、それを分かった上で入社しました。

入社前の「職人さんは怖いイメージ」が覆された

Q:入社前、不安はありましたか?

萩:正直ありました。勝手なイメージでしたが、職人さんって怖いイメージがあったんです。「親方」と呼ばれる人がいて、厳しくて、近寄りがたい……。入社してからもしばらくはそう思っていて「やりづらいかもな」と感じていました。

Q:実際に働いてみて、その印象は変わりましたか?

萩:すぐにその印象は覆りましたね。職人さんの方から話しかけてくれたんです。「どこに住んどんの?」とか、プライベートの話を休憩時間にしてくれて。

僕はずっとサッカーをやっていたんですけど「サッカーをどこどこでやっとったよ」という話をしたら、意外とサッカー経験者の職人さんが結構いたんですよ。その話で盛り上がって「サッカーやってて良かったな」って思いましたね。共通点が見つかると、そこから距離が縮まっていきました。

Q:コミュニケーションは得意な方だったんですか?

萩:そうですね、小さい頃から人と話すのが好きでした。サッカー部での先輩とのコミュニケーションの経験も活きたかもしれません。職人さんたちに可愛がってもらえたので、意外とすんなり溶け込めました。

火花を出すことすらできなかった。溶接習得までの4〜5年

Q:入社後、最初はどんな仕事から始まったんですか?

萩:最初の2週間ぐらいは座学でした。教科書を使って基礎知識を学んだり、危険な作業が伴う仕事なので安全に対する意識を学んだり。いきなり工場の中に入って作業するのではなく、まずそういう座学があり、それから工場に移動しました。

Q:工場ではどのような仕事を?

萩:最初は職人さんの「手元」に関する仕事をしました。職人さんが作業しているのを後ろで見たり、道具を渡したり、材料を段取りしたり。

例えば「じゃあこの鋼材とこの鋼材を繋げます」となった時に、重いので持って支えたり。職人さんが「次、この鋼材を切りたいんだな」というのが先に分かった時は、切る道具や材料を先に段取りしておいたり、線を引っ張ったり。

配管を作る時は現場に寸法を測りに行くんですけれど、1人では絶対測れないので、一緒についていってメジャーを持ったり。そういう下積みを3〜4年ぐらいやりました。

Q:一番苦労したことは何ですか?

萩:溶接ですね。10年経った今でも難しいんですけど、入社当初は本当に何もできなかったです。

アーク溶接ってまず火花を出すんですよ。母材(溶接する金属)に溶接棒を一回当てて、パチッとなった瞬間にある程度の距離を離さないと、溶接が継続できないんです。でも、それが分からない状態でやっているので、バチバチと溶接棒が母材にくっついてしまう。火花を出すことすらできないんです。

テレビで職人さんが当たり前のように溶接しているのを見ると簡単そうに見えるんですけど、あれは経験と技術があるからできることで。普通科の高校を出てきて何も分からない状態だと、本当に何もできなかったですね。

Q:どのように練習したんですか?

萩:いらない廃材を持ってきて、製品に見立てて練習しました。基本は1人でやるんですけど、職人さんが「どうや、うまいこといっとるか」って見に来てくれるんですよ。

「見て覚えろ」という世界ではあるんですけど、職人さんの中にもうまく言語化して伝えてくれる人もいました。でもやっぱり、実際に見て覚えた方が分かりやすかったですね。「じゃあやってみろ」って漠然と言われるんじゃなくて、「一回俺のを見てみ」「俺がやるから後ろで見とけ」って、実際にやって見せてくれる。それが一番分かりやすかったです。

Q:実際の製品を作れるようになるまで、どれぐらいかかりましたか?

萩:4〜5年ですかね。溶接の技術は回数をこなさないと絶対に上手くならないので、近道はないですね。

「若い頃なら教えなかった」職人さんが技術を伝える理由

Q:協力会社の職人さんが、そこまで丁寧に教えてくれるものなんですか?

萩:ありがたいことに、教えてもらえました。よく言われたのは「俺らがもっと若かったら教えてないよ」って。技術を教えるとライバルが増えるわけじゃないですか。「でも、もうこの歳だから教えてやる」って。それはしょっちゅう言われてましたね。

Q:なぜ教えてくれるんだと思いますか?

萩:1つはしっかりコミュニケーションを取って、可愛がってもらえたからだと思います。多分、誰にでも教えてくれるわけじゃないと思うんですよね。

あとは、溶接ができる職人さん(電気屋さん)が全国的に減っているんです。今うちにいる電気屋さんも3人ぐらいでみんな60代。「次はお前らがやっていかなあかんねやぞ」「俺らが抜けたらどうすんねや、誰が溶接すんねや」って、常々言われています。

その職人さんたちも、長年この会社で仕事をしているのでその恩返しの気持ちもあるような気もしています。自分たちの技術を次の世代に残したいという思いで、丁寧に教えてくれています。

色々な職人さんのアイデアを吸収できる。"社員だけの特権"で広がった引き出し

Q:技術を学ぶ上で、良かったと思うことはありますか?

萩:色々な職人さんに付けたことですね。これは社員の特権だと思っています。協力会社の人だと、親方が決まっていてその親方にしか付かないんですよ。でも僕らは親方がいなくて、みんなが親方みたいなイメージなので色々な人の元で働けるんです。色々な職人さんに付いて、様々なアイデアを吸収できる。これは社員だけの特権だと思いますね。

Q:具体的に、どう活きてくるんですか?

萩:同じものを作るにしても、職人さんによって作り方が全然違うんですよ。ゴールは一緒なんですけど、そこに至る過程が違う。使う道具も違えば、アイデアも違う。

例えば、タンクを作る時に「治具」という組み立てるための道具があるんですけど、その治具一つでも人によって使い方が違ったり、種類が違ったりするんです。

溶接すると熱がかかるので歪みが出るんですけど、その歪みを抑えるという用途は同じなのに、やり方が違う。板が熱で出てこないように鋼材を打ち込んで抑える人もいれば「押しボルト」というボルトで抑える人もいる。

色々な職人さんと一緒にやらせてもらったおかげで、その職人さんごとのアイデアを見て、「自分にはどのやり方が合うか」を選べました。将来、誰かに教える時の引き出しにもなりますしね。

「指示される側」から「主導する側」へ。10年目の転機

Q:今はどのような仕事をしているんですか?

萩:後輩と2人で、タンクを1から作っています。数年前までは職人さんの下に付いて仕事をこなしていたのですが、今は自分たちが主導になって、タンクを1個作るということができるようになりました。

製缶工場内作してパーツを作って、それを組み立ててタンクにする。図面を見て、頭の中で立体化させて、計算して、形にしていく。その一連の流れを1から自分たちでやれるようになったので、それが今の一番のやりがいですね。

Q:具体的にはどれぐらいの大きさのものを?

萩:直近だと、5メートルぐらいの高さのタンクを作って、現場に納品しました。自分たちが1から作ったものが形になって、これから先10年以上残っていく。それが達成感というか、やってきて良かったなって思う瞬間ですね。

Q:入社した頃とは、立場がだいぶ変わりましたね。

萩:全然違います。今までは職人さんからの「これ切っといてくれ」「これ溶接しといてくれ」という指示があって、それに応えて動いていた。でも今は自分から「それお願いします」「あれ準備お願いします」と発信する側になった。

僕は職人さんの下でやっている時から、ただ単に使われる人間じゃなくていつか自分が主導できる人間になりたいなと思っていました。そういう気持ちでやってきたので、今の立場になれて嬉しいですね。

工程を回す責任、納期を守るプレッシャー

Q:主導する立場になって、大変なことはありますか?

萩:責任ですね。今までは指示を受けてやっていたので、責任は上の人にあった。でも今は、自分から発信して動くので、そこに責任がかかってくる。

あと、工程内に終わらせなきゃいけないんですよ。「この日からこの日までにタンクを作ってください」「この日までに納めてください」という納期がある。自分たちがのんびりしていたら、その分時間がかかって間に合わなくなる。そういう工程管理を考えながら動くのは今までとは最も違うところですね。

Q:そういう立場になったきっかけは何だったんですか?

萩:僕が職人さんの下でやっていた時に「いつか自分が主導でやりたい」という姿勢で動いていたのを、会社の上司が見て評価してくれたんだと思います。自然と「じゃあ次やってみるか」という話になっていきました。

次の世代へ技術を繋いでいく

Q:後輩の育成もされているんですか?

萩:はい。今、内作のチームは3人で、僕と1個下の後輩と2個下の後輩です。後輩が入ってきた時は、道具の名前から教えましたね。例えば職人さんに「サンダーの刃持ってこい」って言われても、1年目だと種類がわからないんですよ。サンダーの刃にも、磨く刃と切る刃があるんですけど、そういうことも知らない。だから僕が職人さんと後輩の間に入って、「これはこういう種類があって……」って教えてあげる。緩衝材みたいな役割ですね。

Q:後輩のキャリアについては、希望を聞いてもらえる環境ですか?

萩:そうですね。僕は最初からタンクが面白いなって思っていたので、タンクの方に舵を切りました。2個下の後輩は「配管がやりたいです」って言って、配管の道に行きました。

1個下の後輩は「どっちって決められない」って言っていたので、「じゃあ一回試しに配管やってみ」と言って配管をやってもらいました。そして次に「じゃあ僕らと一緒にタンクやろうか」と言ってタンクをやってもらい「どっちが良かった?」と聞いたら「今はタンクが面白い」と言いました。じゃあ僕とタンクを一緒にやろうかと言って今は2人でタンクをやっています。

Q:ある程度自分の意思でキャリアを決めていけるんですね?

萩:僕の時もそうだったんですが、会社がそういう希望を聞いて、道筋を作ってくれているんですよね。だから僕も会社がそうしてくれている分、配管の方で人が足りないなら応援に行くとか、そういう姿勢で仕事をしてます。

何者でもなかった自分もチームを率いて5メートルのタンクを作れるようになった

Q:最後に、この仕事に興味を持っている方へメッセージをお願いします。

萩:僕も入社した時は何者でもなかったんです。普通科高校を出てきて、工業系の高校や大学から来なきゃいけないってわけでもない。右も左もわからない状態で入ってきた。

でも、今は僕らがいるので、教えることができます。1から教えられる環境があります。

「建設業」「職人さん」っていうと、壁があると思うんですよね。僕も入社前は「絶対怖い人ばっかりなんだろうな」って思っていました。でも、実際はそうじゃなかった。安心して話を聞いてもらえたらと思います。